・介護保険見直し政府案
 理念なき1兆円投入

平成11年11月6日 読売新聞より

 介護保険制度を来年4月から円滑に実施するため、政府が5日にまとめた特別対策は、99年度第2次補正予算案だけで1兆円を超す巨額の国費を投じることになる。政府・与党間で解釈のズレが見られた40〜64歳の保険料は一部負担軽減となったが、負担増分だけを穴埋めする「理念なきつじつま合わせ」の面も否定できない。また、家族介護に慰労金支給を認めるまでの与党の議論は、高齢者の介護を社会で支え合う制度の理念すらあいまいにしかねない可能性をはらんでいる。

◆65歳以上(1号)の保険料
 政府は、65歳以上の保険料を来年4月から半年間徴収しないことについて、衆院議員の任期が来年10月までであることから「選挙目当て」との批判をかわすため、要介護認定が始まった先月を起点に、1年間を「制度の本格的なスタートに向けての助走期間」と言い換えた。そのうえ、その後1年間の保険料半額期間は「新たな負担に慣れていただくよう配慮する」としている。その後は本来の保険料に戻すことになる。
 65歳以上の保険料は、市町村が3年ごとに決めるが、当初の保険料は、来年2月か3月の市町村議会で確定する。全国平均で月約3000円で、来年10月からは約1500円、2001年10月からは約3000円が年金から天引きされる。年金は2ヶ月分支給なので、天引きも2ヶ月分となる。

◆40〜64歳(2号)の保険料
 自民党の亀井政調会長は5日の記者会見で、「保険料を取って、(介護保険の導入に伴う)負担増分を玉突きで補てんする」と述べ、介護保険料は、来年4月から予定通り徴収する考えを示した。
 亀井氏はこの日も、65歳以上の保険料の措置と「イコールフッティング(同等)」と強調したが、混乱の原因は、厚生省が考えた案は、介護保険対策というより、医療保険対策だったことだ。
 2号の介護保険料は、医療保険料に上乗せして徴収される仕組み。しかし、老人医療費の伸びで、財政が厳しい健康保険組合、市町村国民健康保険など医療保険者を助ける必要があり、各医療保険者全体として従来より負担増となる額の1年分を国費で補てんすることにした。具体的には、半年分ずつ2年に分けて助成するが、国保については「満遍なく」(丹羽厚相)ほぼ全市町村に補助する方針で、今後細部を詰める。
 一方、中小企業のサラリーマンが加入する政府管掌健康保険への助成は、法律改正が必要なため、一切ない。

◆家族介護に慰労金
 在宅で高齢者を介護する家族への慰労金は
  @要介護認定で重度の介護を必要とする要介護4、最重度の要介護5
  A住民税非課税世帯
が対象。全国で7万6千人ほどと見られ、このうち、介護サービスを1年間全く利用しない(年間1週間程度のショートステイの利用は除く)場合を条件に、年1回、10万円を上限に、当面2001、2002年度に支給する。このほか、2000年度から、年10万円程度までおむつなどの現物支給も認めた。いずれも介護保険法とは別枠で支給するもので、金額の上積みを求めていた亀井政調会長も「合わせて年間20万円ならやむを得ない」と了承した。あくまで市町村の判断で支給する。
 政府は「決してばらまきといったものではない」とわざわざ説明しているが、野党などから「福祉版地域振興券」(民主党・鳩山代表)など、厳しい批判を受けている。
 今回の政府決定では、家族介護の支援のあり方で今後も議論を重ねることを表明し、結論が出るまで、市町村事業に助成することとしている。また、家族介護者がヘルパーの資格をとることを支援することで、将来、ヘルパーとしての対価を受けることが出来るようにしている。
 厚生省は、家族介護に保険から報酬を支払う条件として、「他人に対する介護活動時間が、同居する家族の介護時間を上回る」ことを決めているが、亀井氏は「固定して考えていないことを評価した」と述べ、弾力的に運用する必要性を強調しており、改めて議論を呼ぶとみられる。

◆自由抜き”見切り発車”
 政府が5日、介護保険制度見直しの特別対策を自由党の了解を得ないまま「見切り発車」の形で決定したのは、臨時国会での99年度第2次補正予算案審議などを控え、これ以上は決着を遅らせることができないとの判断によるものだ。
 「3党が全部満足するような回答は、いくら3党の合意事項であっても不可能なので、3党の意を酌んで決定した」。5日夕、青木官房長官はこう述べ、自由党の主張を退けた政府の決断の正当性を強調した。
 5日昼、自由党の実務者レベルでは「政府案は受け入れ可能」との空気が強まり、円満決着への期待が高まった。しかし、3党政策責任者の協議をいったん中断し、自由党の藤井幹事長が自由党本部で小沢党首に協議内容を報告したところ、小沢氏は政府案受け入れに難色を示し、調整は振り出しに戻った。
 結局、同日夕、首相官邸で行われた政府・与党の最終調整の場に、藤井氏は姿を見せず、しばらくは連絡も取れなくなった。
 自由党不在のまま、政府が特別対策を最終決定したのは、この問題で自由党が政権離脱することはないとの読みがあった。
 ただ、自民党内には、自由党に対する不満が強まっているのも事実。小泉純一郎・元厚相は5日夜、日本テレビの衛星放送番組で、「連立を早く解消して何を国民に訴えて選挙を戦うのか考えないといけない」と述べた。
 小沢氏は5日夜、東京都内で自民党の亀井政調会長と会談し、介護保険制度見直し案について、「官僚の言いなりになっている」と批判した。自自公連立に関しては「自由党が連立の中で大切に扱われていない」などと不満を表明したという。
 自民党としても、当面は税方式への転換を声高に主張する構えだが、補正予算案の採決に当たっては、今回の特別対策を最終的には容認するのかどうかの踏み絵を踏まされる。この点、藤井氏は5日夜の記者会見で「(補正予算案への対応は)何とも申し上げられない」と明言を避けた。 


  


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