植物の持つパワー利用/園芸療法

11/30読売新聞より

 草花をプレゼントされて嫌な思いをする人はいないはず。ガーデニングのブームも、慌ただしい都市生活に疲れた現代人が、草花が持つこんな不思議なパワーを、治療やリハビリテーションに取り入れる「園芸療法」が、医療、福祉などの現場で広がり始めている。

 「園芸療法が農作業や園芸と異なるのは、生産性に重点を置くのではなく、育てるプロセスに最大の価値を見い出す点」。これが「園芸療法のすすめ」の編者として知られる神経内科医の吉長元孝・広島国際大医療福祉学部教授の一番言いたいところ。
 園芸療法は、性別、年齢、障害程度を問わない。介助者の手を借り、コミュニケーションをとりながら土を掘り返し、苗を植え、実を収穫する。こうした作業が五感を刺激し、人間本来の治癒能力を高める。
 起源は18世紀のフランス。精神障害者施設で、食糧確保と精神安定のため農場を造ったのがルーツとされる。その後、各国に広がり、ベトナム戦争の帰還軍人の心身リハビリテーションに取り入れたアメリカで急速に進んだ。同国には、「園芸療法士」という資格さえある。
 プログラムは60−90分。「道具を握れるようになる」とか、「だれかと一言でも話をする」などの目標を設定し、介助者が成果をチェックする。作業には障害をカバーするアームホルダーの付いたスコップや握りを太くつかみやすくしたカマなど専用具もある。
 花を植えるため、起き上がったり、立ったり、体を伸ばしたりすることで自然に筋力がつき、スコップを握ったり、つかんだりする動作も手足の関節を
動かす「関節可動域」の訓練になる。痴ほう症にも効果があるとして、老人施設、デイケアセンターなどで導入するところも増えてきた。
 広島県三次市の三次地区医師会医療センターは、今年4月から病院の屋上を利用して園芸療法を始めた。週2回、作業療法士らが指導。脳卒中や人工透析患者、痴ほう症のお年寄りら10−15人が参加するが、要介護の痴ほう老人が、徘徊(はいかい)が少なくなり、精神的に落ち着きを見せるなど効果が出たという。
 加藤芳朗院長は、「なじんだ花に触れることで昔の記憶を呼び起こし、鎮静作用もあるようだ。単調で押し付け気味な面もあったリハビリとは違って楽しく、副作用もない」と有効性を強調する。
 しかし、園芸療法は国内でスタートしたばかり。吉長教授は、「こんな障害、あんな症状にはこの植物、あの作業が効くという対症療法的なアプローチではなく、草花を育てるということで自分の役割を再発見し、患者の意欲が高まることが最大の効果」と説く。



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